「事業承継って…そもそも何をどうすることなの?」
「事業承継について根本から学びたい。それを実現することで会社の承継が上手くいくはず」
昨今、経営者の高齢化から事業承継が一つの社会的な問題となっています。しかし「事業承継」の言葉に含まれる要素は膨大で、そこを知らずに事業承継に着手しても結果が出ません。
そこで今回の記事では、事業承継という複雑怪奇なものを多角的な視点から分析し、解説します。
具体的には以下の内容に言及していきます。
- 事業承継で受け継ぐ「見えない資産」とは
- 事業承継の先にあるべき会社の永続と成長について
- 承継した事業を上手く経営する3つのコツ
- 事業承継が上手くいかない4つの原因
- 事業承継を成功させるために、時として必要な厳しい対処
事業承継は一つの視点から眺めていても全体像のわかりにくいものです。そのため、この記事で紹介する様々な視点から事業紹介について考えてみてください。
そして事業承継のあり方に正解はありません。あなたの会社にとってなるべく適した方法を模索し続けてこそ事業承継を成功させることができるのです。
あなたもここで一度立ち止まり、あなたの会社にとっての事業承継のあり方を考えてみてください。
Contents
事業承継は、人・モノ・権利と「見えない資産」を受け継ぐこと
一般的に、事業承継というと「株式の承継」をイメージするかもしれませんが、承継の対象は株式のみではありません。承継の対象となるのはあくまで「事業」なのです。そのためそもそもの「事業の意味」が問題となります。
例えば資金、設備、土地建物などは目に見える資産であり、承継の対象として誰もが理解しているはずです。しかしこれらの「目に見える資産のみの所有権を後継者に移転すること=事業承継」と考えてしまうと、痛い目をみる恐れがあります。
むしろこうした財務諸表に表れない「あなたの会社らしさ・あなたの会社の強み・あなたの会社の歴史とビジョン」に焦点を合わせて事業承継に取り組む姿勢こそが重要なのです。
以下では「事業」に含まれるものを人・モノ・見えない資産の3つに分けて解説します。
人は、従業員・株主・顧客
事業に含まれる重要な要素の一つに「人」があります。これには会社に紐づく全ての人が含まれると考えて問題ありません。具体的には以下のとおりです。
- 従業員
- 株主
- 顧客
- 取引先
- 債権者
また会社が属する自治体やコミュニティの構成員も間接的に会社に紐づく人と評価できる場合あるででしょう。事業承継では、こうしたステークホルダー全員が承継の対象になると考えておくべきです。
会社および事業は、結局のところ人の集合体です。当然ながら事業承継の前後で会社の体制が変わることもあり、従来のステークホルダー全員と承継前の関係性を維持することができない場合もあります。
しかし、それはあくまでも事業承継後の経営方針の転換により起こるべきものであり、事業承継そのもので人を取りこぼすべきではありません。そのため事業承継の際は、可能な限りステークホルダー全員に対して真摯に説明責任を果たす必要があるでしょう。
モノは、金・機械・設備・情報
続いて事業に含まれる「モノ」について解説していきます。人と同様にモノも幅広くなりますが、代表的なのは以下です。
- 金
- 株式
- 事務用品
- 工具類
- 機械
- 土地
- 建物
- 設備
- 情報
- システム
このようにモノの意味するところは非常に幅広くなります。それこそボールペンの1本であってもモノに含まれるためです。ただし、事業承継の対象として理解しやすいのもモノの特徴です。
見えない資産は、会社の歴史・ブランド・信用
最後に解説するのが、事業承継の際に見逃されがちな「見えない資産」です。ここまで紹介してきた人とモノは実体のわかりやすい要素です。
一方で、見えない資産である以下の要素は実体がわかりにくいことから往々にして事業承継の際に忘れられてしまうのです。
- 会社の歴史
- 会社のブランド
- 信用
- 会社の強み
- 会社のビジョン
そして実はこれらの見えない資産こそが会社の個性を作ります。
複雑な手続きが必要となる事業承継において、見えない資産を的確に受け継ぐことは決して容易ではありませんが、元経営者と後継者が共通の認識を持つことで事業承継の成功率が高まるはずです。
事業承継の先には会社の永続と成長がなければならない
事業承継の対象となる要素について確認したところで、続いては事業承継の先にあるべき会社の永続と成長について解説していきます。
ゴーイングコンサーンとは会社が継続する前提を指す用語ですが、これは事業承継があっても変わりません。会社は永続を目指して活動をしていくべきなのです。そして、必要に応じて成長することも求められます。
そう考えると、事業承継はあくまで会社が永続する中における一つのポイントでしかありません。このように承継の先にある永続と成長から逆算する形で、事業承継時の注意点を知ることができるのです。
経営状況・課題の把握
事業承継を行う際は、対象となる会社の経営状況と課題を把握することが非常に重要です。それを承継前の経営者から承継後への経営者にしっかりと引き継ぐのです。
それこそゼロから会社を作り上げた創業者の中には言語化されていない知識やノウハウが詰まっています。しかし、その多くは意識的な行動なしに2代目経営者に受け継がれるものではありません。
また2代目経営者はそもそも経営の経験に乏しいのです。そこをいかにして創業者がフォローしていくかが大切ですね。
これができてこそ事業承継が会社の永続と成長を妨げるものではなくなります。
創業者の目線で経営をしない勇気
会社の状態を把握することと同じくらい重要なのが、2代目経営者は創業者の目線ではなく2代目経営者の目線で経営にあたるということです。
これには以下の2つの理由があります。
- 従業員にとって創業者と2代目経営者は大きく異なる存在であるため
- 2代目経営者には創業時の経験が欠けているため
これらの理由から2代目経営者は創業者の真似をするのではなく、学ぶべきものを学びつつも自分なりの経営を見つけなければならないのです。以下では2つの理由について詳しく解説します。
従業員にとっての創業者と2代目経営者の違い
従業員にとって創業者は特別な存在となります。特に創業当時の苦労を共にした古参の従業員と創業者の心の結びつきには強固なものがあるのです。
そうした状況で、2代目経営者があたかも自分が創業者であるかのような振る舞いをすると、従業員からの反発を招きます。こうした反発は往々にして事業承継の成功を阻害するのですね。
そのため2代目経営者はあくまでも2代目経営者としてのあり方を模索いかなければなりません。もちろん創業者のノウハウを学びながらです。こうした2代目経営者の柔軟な姿勢こそ事業承継後の会社の永続と成長につながります。
2代目経営者に欠けている経験
従業員にとってどういった存在であるかのみならず、2代目経営者には創業当時の経験がありません。これは当然のことですが、2代目経営者が創業者になれない大きな理由です。
しかし創業当時の経験が欠けている点は、2代目経営者にとってデメリットではありません。むしろ創業当時の経験に縛られない大きな改革を成すことができるのも2代目経営者だからこそです。
多くの企業は現代に入って安定を書いています。特に中小企業においてはそれが顕著でしょう。そのため2代目経営者には創業者から受け継いだノウハウと知識を活用しつつ、これまでにない視点からの大きな改革をもって会社を永続・成長させていくことが求められます。
承継した事業を上手く経営する3つのコツ
ここまでの解説で、事業承継は見えない資産も含めて受け継ぐ必要があり、承継の先には会社の永続と成長がなければならないことがわかりました。
ここではこれまでのポイントをまとめる意味も込めて、承継した事業を上手く経営する3つのコツを紹介します。
見えない資産を会社全体で共有する
事業承継の対象として見えない資産に焦点を合わせることの重要性は先述したとおりですが、2代目経営者という立場で経営に着手する際は、いっそ「見えない資産=会社の個性」を会社全体で共有するのがおすすめです。
足を止めて眺めてみると、会社の中には様々な人がいるはずです。創業当時から創業者を支えてきた古参社員、現場たたき上げの中堅社員、新入社員、様々な経歴を持つ役員。事業承継を成功させるためには、2代目経営者と彼ら全員が一丸となる必要があるのです。
そして、それを成すために使えるのが見えない資産の見える化です。承継の手続きがひと段落したところで、2代目経営者と全社員で今一度会社の個性とこれからについて共有する機会を作りましょう。
2代目社長が経営の主導権を握る
2つ目のコツは、2代目経営者が経営の主導権を握ること、すなわち創業者の元に不要な経営権を残さないことです。
失敗する事業承継の例としてよく挙げられるのが、2代目経営者の未熟と不安から創業者のもとに従来通りの経営権を残し、会社が2つの頭を持つ状態となるものです。
そうなると、2代目経営者と創業者が対立し、従業員も2つに分かれる恐れがあります。そうなると会社は従来の事業を続けるどころではなくなり、永続も成長も消えてしまうのです。
これを防ぐために、創業者は完全なサポート役に退き、経営判断の最終主体を2代目経営者にすることを徹底すべきです。
腹を割って社員と話す
3つ目のコツは事業承継の前後で社員と腹を割って話すことです。非常に曖昧なコツとなりますが、事業承継の際、社員にはなかなか口に出せない疑問と不安が生まれます。例えば以下のようなものです。
- クビを切られたりするのか
- 2代目経営者は従業員を守ってくれるのだろうか
- 2代目経営者になることで取引先の信用が低下しないか
- そもそも2代目経営者は経営できるの?頼りになるの?
このように従業員に生まれる疑問と不安には、根拠のあるものからないものまで幅広く存在します。しかしこれらを無視するのは離職率を高めることにつながります。
そのため2代目経営者・創業者・役員・従業員でしっかりと話し合う機会を持つと、事業承継が上手くいく可能性が高まります。
結果として事業承継が上手くいかない原因4選
承継した事業を上手く経営するコツを確認したところで、次は反対の視点を持つ意味で事業承継が失敗する原因を4つ解説します。成功するコツ、失敗する原因、双方を知ることであなたの会社の事業承継のあり方が見えてきます。
事業承継が突然すぎる
失敗する原因の1つ目は、事業承継が突然であるものです。典型的なケースとしては、創業者が突然息子を入社させて3か月後に2代目経営者にすると宣言するような場合となります。
従業員からするとまさに寝耳に水であり、「息子さん、今まで他の仕事してたはずだけど経営なんてできるの?」と反発を招きます。また2代目経営者自身も会社の事業に関する知識と経験に乏しく、円滑な経営をすることができません。結果、事業承継が失敗します。
株式保有者が分かれ、迅速な経営ができなくなった
2つ目の原因は、事業承継の際に株式が複数の人物に配分されることです。それこそ創業者が100%有していた株式を、息子兄弟4人で25%ずつ相続したケースが該当します。
この際、代表権を兄弟の一人に与えたとしても、株主総会の決議が必要となる事項について迅速な経営ができなくなる恐れがあります。
中小企業は経営の迅速性が一つの武器となっている場合があるため、それが害されるとビジネスに支障が起こるのですね。たとえば大企業は株式が多くの人物に配分されています。それでも経営が上手くいくのですから、株式の保有者が分かれること自体に問題はありせん。
あくまであなたの会社として株式保有者が分かれて問題ないかが重要です。経営の迅速性に対する要請から株式のあり方を検討していきましょう。
創業者が依然として大きな経営権を持っている
承継した事業を上手く経営するコツの2つ目として、2代目社長が経営の主導権を握る重要性を解説しましたが、これが上手くいかずに創業者が大きな経営権を持つと事業承継が失敗します。
この失敗を回避するためには、創業者の心のあり方こそ大切になります。通常、2代目経営者に代表権を譲った後、創業者は役員もしくは会長職などに退きます。しかし既存の取引先との関係維持のために一定の経営権を創業者のもとに残す場合もあります。
このような場合に、創業者自信が「一応の経営権は残っているけれど、経営判断自体は2代目経営者に任せよう」と思う必要があるのです。これができず、創業者が経営判断をする場面が続くと、2代目経営者は成長できず、会社が2つに割れる恐れがあります。
古参役員・古参従業員が協力してくれない
創業者にカリスマ性があった場合、古参役員と古参従業員がいつまでも2代目経営者に協力しないケースがあります。これが事業承継を失敗させる原因の4つ目です。
こうした場合、創業者から古参役員・古参従業員へと説明をする必要があり、また2代目経営者も彼らから真摯に学ぶ姿勢を持つ必要があります。経営者となった気負いから、2代目が「トップは俺だ!」とアピールしてしまうとますます古参役員・古参従業員の心は離れていきます。
そうではなく2代目経営者自らときには頭を下げて彼らから教えを乞う姿勢を見せていくのです。そうすることで、古参の人材も2代目経営者の真摯な姿勢を信頼し、協力してくれるはずです。
時として必要となる厳しい対処
ここまではどちらかというと調和の形で事業承継を成功させる方法を紹介してきました。しかし経営にはときに甘さを捨てた冷酷な対処が求められる場合があります。
以下で紹介する2つについては第一の手段とすべきではありませんが、事業承継を成功させるために選択せざるを得ない場合があると頭の片隅で覚えておいてください。
2代目経営者の元に株式を集め、創業者の権利を制限する
記事の中で再三繰り返していますが、事業承継が行われた後、会社の第一の経営主体となるのは2代目経営者です。そのため株式を2代目経営者の元に集めることが重要になります。
その上で、金融機関や取引先をはじめとした外部者からの信頼を担保するために、一定の代表権を創業者のもとに残します。こ
のように2代目経営者が株式の大半を保有していると、創業者との間で意見が割れた際もスムーズに経営を進めることができます。
反発する役員・社員といかに関係を築くか
社員の中には2代目経営者というだけで根拠なく反発を持つ人物がいる場合があります。こうした人物との関係の構築には細心の注意が必要となります。
反発を心の中に持つだけならば問題はありませんが、反発心から事業を妨げる行為をする恐れがあるためです。
の際に最も重要なのは、真摯な対話です。それを通してお互いの意見を知ることで、根拠のない反発心が次第に消えていく場合があります。
こうした対話をしないまま時間ばかりが経過すると、反発心が過度に膨れ上がり、最終的に解雇や退職といった極端な手段しか残らなくなるのです。
まとめ
いかがだったでしょうか? 今回の記事では事業承継について様々な視点から解説しました。漠然としていた事業承継の実体を知るためのヒントを得ることができたでしょうか?
事業承継は複雑な要素が絡むものなので、「こうすれば成功する!」と一概に言うことはできません。そのため今回の記事で紹介した以下のポイントを、あなたの会社の状態に合わせて実践していく必要があります。
- 承継の対象となる見えない資産に注目すべき
- 事業承継の先には会社の成長と持続がある
- 事業承継を成功させるためには2代目経営者が経営の主導権を握る必要がある
- 事業承継が失敗するケースを頭に入れておこう
漠然としており、実体のつかみにくい事業承継ですが、視点を変えて分析することで少しずつあなたの会社に合う方法が見えてくるでしょう。
創業者・2代目経営者・役員・従業員が一丸となることのできる環境を、あなたも見つけてみてください。
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