事業承継マニュアルは中小企業の事業承継の円滑化のために中小企業庁が発行するものです。そこでは中小企業を取り巻く現状から、親族内承継・親族外承継(従業員等)・親族外承継(第三者)という事業承継の3つの方法について詳しい解説がなされています。
つまり事業承継マニュアルは、公的に作成された事業承継についての網羅的な手引きなのです。
「事業承継を考えているけれど、何から始めたら良いかわからない…」という場合、まずは事業承継マニュアルを確認してみるのが良いでしょう。
しかしマニュアルとはいうものの内容は150ページを超えます。そのため忙しいと内容を精読する時間をとることができません。そこで、今回の記事では事業承継マニュアルについて以下の5つを解説します。
- マニュアルが作られた経緯
- マニュアルの構成
- マニュアルの優れた点
- マニュアルの使用例
- マニュアルを使う際の注意点
この記事を読むことで、事業承継マニュアルの大まかな内容と利用方法がわかるはずです。あなたも事業承継マニュアルを使いこなし、円滑な事業承継を行いましょう。
Contents
事業承継マニュアルが作られた経緯
はじめに事業承継マニュアルが作られた経緯について確認しましょう。なぜ作られたのかを知ることで、マニュアルの利用方法が見えてきます。
「経験者のための事業証明マニュアル」の冒頭には中小企業庁による以下の言葉があります。
「中小企業・小規模事業者の経営者のうち、65歳以上の経営者は全体の約4割を占め、今後数年で、多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えるとみられています。……経営者の皆さまが円滑な事業承継を実現され、価値ある事業が次世代に渡って受け継がれていく上で、本書をご活用いただければ幸いです。」
中小企業庁「経験者のための事業証明マニュアル」より引用
つまり事業承継マニュアルは、日本の経済と産業を支える中小企業が円滑に次世代に受け継がれていくように作成されたのです。そのため円滑な事業承継を望む場合は、ぜひとも目を通しておくべきです。
事業承継マニュアルの構成
事業承継マニュアルが作られた経緯を理解したところで、さっそく内容について確認していきましょう。ただし各項目を細かく解説すると記事があまりに長くなるので、ここでは章ごとの特徴を解説します。
1章:アウトライン
第1章はアウトラインとなっており、以下の3つの要素から構成されています。
- 事業承継の問題点(経営者の高齢化、後継者不足、事業承継の先送り)
- 事業承継で承継する3つの要素(人、資産、知的資産)
- 事業承継を実行する5つのステップ
このように第1章では、事業承継全般についての知識を得ることができます。世間では「事業承継」という言葉が独り歩きしていますが、そもそもなぜ問題となっているのか、そもそも何を承継するのか…という問題が具体的に語られることは少ないのです。
それを知ることができるのが第1章です。これから事業承継について考えていく場合も、ある程度は事業承継に知識を持っている場合もまずは第1章を読んでみましょう。特に以下の「事業承継を実行するまでの5つのステップ」はこの記事でも必要な知識となるので確認してみてください。
引用:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170410shoukei.pdf
親族や従業員に承継する場合もM&A等を使う場合も、ステップ1からステップ3までの流れは共通です。
そして、ステップ1からステップ3までに早期に着手することこそ事業承継を円滑に進めるために重要なのですね。
2章:事業承継計画
第2章は事業承継計画について解説する内容となっています。そして具体的な策定方法として、以下の5つを挙げています。
- 会社の中長期目標を設定する
- 事業承継に向けた経営者の行動を設定する
- 事業承継に向けた後継者の行動を設定する
- 事業承継に向けた会社の行動を設定する
- 関係者と事業承継計画を共有する
そして章の最後には事業承継計画のフォーマットがあり、また記入例もあります。
第1章を読むことで事業承継の全体について大まかに理解した後に、第2章の解説に従って実際に事業承継計画を立ててみるのが重要なのですね。
もちろん最初は大雑把な計画で問題ありません。第2章で事業承継計画を立てて、それをもとに第3章以降を読み進めるのがおすすめです。
以下では事業承継計画の記入例を確認しましょう。第1章で確認した「事業承継を実行するまでの5つのステップ」が計画に落とし込まれた姿となります。
引用:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170410shoukei.pdf
はじめからここまでの計画を立てるのは難しいと感じるかもしれませんが、先述したとおり着手することが重要です。
あなたも見様見真似で構わないので、事業承継画のフォーマットに記入してみましょう。
3章:事業承継を成功させるアクション
第3章はより実践的な内容に入っていきます。ここでは、事業承継を成功させるための以下の6つの具体的なアクションが解説されているのです。
- 後継者の選び方・教育方法
- 経営権の分散防止
- 税金負担対策
- 事業承継で必要になるお金
- 債務整理・個人保証への対応
- M&Aによる事業承継
いずれも事業承継の際に大きな問題となるポイントです。あなたの会社における事業承継をイメージした時に、すでに問題となりそうな部分があるならば、第3章を使って確認しておくのがおすすめです。
事業承継マニュアルにおいて最もボリュームのある章が第3章なので、問題に対する具体的な解決策を理解していきましょう。
4章:中小企業の事業承継をサポートする取組
第4章では事業承継についての相談先が紹介されています。ここで紹介されているのは公的機関および士業が主となっています。具体的な連絡先まであるため、第4章は独立させて印刷し、常に手元に置いておくのもよいでしょう。
また、「承継準備を始めるには?」「個人保証を外すには?」といった事業承継における具体的な悩みから、それに適した相談先を示すページもあります。
事業承継は経営者と後継者のみで進めるのが難しい場面が多々あるため、必要に応じて外部機関や専門家を利用する視点は持っておくべきです。
付録:事業承継自己診断チェックシート
付録である「事業承継自己診断チェックシート」は、9つの質問からあなたの事業承継が現在どの段階にあるかを確認するものです。
つまりチェックシートであなたの会社の現状を把握することができ、そのまま事業承継マニュアルのどの部分を読むべきか理解できるのです。
事業承継に手を付けたは良いものの、複数のアクションを同時に行うことで中長期的な視野を失う恐れがあります。その際はチェックシートで、進捗を確認していきましょう。
事業承継マニュアルの優れた点
このように事業承継マニュアルは、事業承継全体の流れから各段階における具体的な問題点の解決方法まで必要に応じて確認できる優れものです。
あなたの会社の事業承継の進捗に応じて利用できるため、事業承継の着手から完了まで手元に置いておきましょう。
- 事業承継マニュアルの優れた点は以下のとおりです。
- 事業承継に未着手の段階から、事業承継の完了直前まで使える情報量
- 事業承継全体の流れから、各段階における細かな問題点まで確認できる
- 具体的な問題点から辞書を引くように解決方法を検索できる
- 事業承継計画フォーマットが秀逸
- 相談先が記載されているため、各段階で業務を外注しやすい
事業承継マニュアルは情報量が多いですが記載がコンパクトにまとまっているため、必要に応じて実践的な利用ができます。
しかし一度の通読で情報のすべてを理解することが難しいため、何度も繰り返し目を通す気持ちを持っておくのがおすすめです。
事業承継が進むにつれて、あなたの知識と経験も増えていくため、そのタイミングで再読することで新しい視点を見つけることができるはずです。
事業承継マニュアルの実際の使用例
ここでは事業承継マニュアルの使用例を解説します。あなたが事業承継について以下の悩みを抱えている前提で読んでみてください。
「事業承継に着手すべきなんだろうけど、そもそもいつまでに後継者を決める必要があるんだろう?」
この場合、まずはマニュアルの18ページを確認します。
引用:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170410shoukei.pdf
そしてマニュアルにしたがって20ページへ進みましょう。
引用:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170410shoukei.pdf
20ページには「後継者の育成に必要な期間」についてのアンケート結果が載っています。
そして、そこでは後継者の育成に必要な期間について「約5年」および「5~10年」との回答が全体の半数を超えるという結果が示されているのです。
このことから後継者の決定は、先代経営者が2代目に完全に経営を譲る5年~10年前に行うべきとわかります。
このようにあなたの具体的な悩みから答えを検索するかたちで事業承継マニュアルを使っていきましょう。
事業承継マニュアルを使う際の注意点
さいごに事業承継マニュアルを使う際の注意点を確認しましょう。便利なマニュアルですが、以下のポイントをおさえて使うことでより高い効果を得られるのです。
あなたの会社独自の事情を加味しよう
事業承継マニュアルは便利なものですが、事業承継に際しての具体的な問題は会社ごとに異なります。
そのため1から100まで全てをマニュアルの通りに進めるのはリスクにつながります。そのため各段階において、あなたの会社独自の事情を常に加味していきましょう。
そうした独自の事情を念頭においてマニュアルの内容を柔軟に解釈するのが事業承継を成功させるポイントになります。また独自の事情に臨機応変に対応するために、必要に応じて専門機関および専門家を有効活用するのも重要です。
マニュアルは必要に応じて役員や従業員と共有しよう
事業承継マニュアルは、はじめは経営者が手に取るものです。そもそも事業承継はM&Aも選択肢の一つとなるため、着手の段階から広く従業員に周知すべきものではありません。
特にM&Aの場合は、従業員の動揺を回避するために最終盤まで秘密裏に勧められます。一方で事業を社長の息子に継がせる場合は、比較的早い段階で事業承継について従業員に伝えて、会社全体で協力する場合があります。
このように事業承継についてどのタイミングで内容を従業員に伝えるかは難しい問題です。
ただし、従業員らの協力を得る必要がある場合には、マニュアルも含めて社内で適切な情報共有をする必要があるでしょう。
専門家と相談しつつ、事業承継マニュアルを従業員に読んでもらうタイミングをはかっていってください。
まとめ
以上のように、事業承継マニュアルは事業承継をしようと考えている経営者の大きな味方です。50ページと比較的コンパクトにまとめられていながら、事業承全般について知識を得ることができるためです。
事業承継マニュアルを有効活用するためには以下のポイントに注意しましょう。
- 事業承継マニュアルは円滑な事業承継を行うために活用できる
- まずは第1章で事業承継全体について大まかに理解しよう
- 不完全でも構わないので事業承継計画を立てよう
- 具体的な悩みは第3章で一つずつ潰していこう
- あなたの会社独自の事情を加味しながらマニュアルを柔軟に活用しよう
事業承継マニュアルは何度も繰り返し読むことで真価を発揮します。一度の通読で細かなポイントまで理解する必要はないので、あなたの会社の事業承継の進捗にあわせて何度も読み、知識を深めていってください。そうすることで事業承継を成功させることができます。
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