「事業承継税制って…なんだ…?」
「父から株式を相続したけど、事業承継税制で相続税の支払いについて猶予を受けられるの?」
事業承継税制とは、あなたが親から株式の相続または贈与を受けた際に、相続税または贈与税の猶予を受けることができる制度です。
つまりあなたにおいて一時的に税負担が軽くなることで、それが承継した会社の負担軽減となり、経営が円滑化するのです。
今回はこのように事業承継税制について紹介します。
納税猶予を受ける5つの要件から、猶予が打ち切りになる6つの事由まで詳しく解説していくので、この記事を読むことであなたは事業承継税制をすぐにでも利用する知識を得ることができます。
中小企業の事業承継における税負担はあなた個人だけでなく会社の経営にも大きな影響を与えます。そのため2代目経営者には税負担を軽くする事業承継税制をしっかりと理解し、必要に応じて使いこなすことが求められます。
事業承継についてしっかり知りたい方はまずこちらの記事をお読みください。
Contents
事業承継税制で非上場株式の相続税納税を猶予
はじめに事業承継税制の制度概要について確認します。
税度を理解していつでも使うことができるようにするためには、なぜこうした制度が作られたかまで確認するのが効果的なのです。
事業承継税制は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」により基礎づけられた制度です。中小企業の事業承継が社会問題として認識されて久しいですが、問題の一つに2代目以降の後継者の資金不足により中小企業の株式の相続・贈与を受けるのが難しいというものがあります。
それを解消し、存続できる中小企業を増やそうとする試みが事業承継税制です。つまり相続税または贈与税を猶予するので、事業承継をして中小企業の解散を回避してね、ということです。
事業承継税制を利用して相続税または贈与税の猶予を受けることで以下のメリットがあります。
- 2代目経営者のプライベートな資産が減らない
- 税を支払うために役員報酬や配当として会社から資金を引き出す必要がなくなる
- つまり会社の内部留保を増やし、事業に活かすことができる
以上のように、事業承継税制はまさに中小企業が解散を免れ、存続するために2代目経営者の税負担を軽くする制度なのです。
相続税の納税猶予が認められる5つの要件
それでは事業承継税制の内容に入っていきましょう。事業承継税制は相続税と贈与税を猶予するものですが、ここではまず相続税について解説していきます。
事業承継税制を利用して相続税の猶予を受けるために必要な要件は5つあります。それぞれについて確認していきましょう。
相続開始から8か月以内に申請
猶予を受けるためには、相続開始から8か月以内に都道府県知事に対して申請をする必要があります。
この際に注意すべきは、相続税の申告期限である相続開始から10か月以内との混同を避けることです。相続税について猶予を受けようとする場合の申請書はこちらです。
このように事業承継税制は自ら申請することで利用できる制度なのです。株式を相続するだけで自動的に認められるものではないので、申請は忘れずに行いましょう。
被相続人に求められる要件
申請期限に続いて、被相続人(先代の経営者)に求められる要件について解説します。
先代経営者に求められる要件は以下の2つです。
- 会社の代表権を有していたこと
- 会社について被相続人および親族などで50%を超える議決権を有しており、被相続人が親族などの中で最も多くの議決権を有していること
中小企業の多くは代表者のもとに株式が集まるため、上記の要件を満たすことは難しくないでしょう。
相続人に求められる要件
次に相続人(2代目経営者)に求められる要件について解説します。
求められるものは以下の2つです。
- 相続開始の翌日から5か月が経過する日において会社の代表権を有していること
- 相続開始時点で、会社について相続人および親族などで50%を超える議決権を有しており、相続人が親族などの中で最も多くの議決権を有していること
そもそも相続人である2代目経営者が十分な株式を有し、かつ会社の代表者でなければ相続税を猶予したところで、それが中小企業の存続につながらない恐れがあります。そのため上記のような2つの要件が求められます。
この要件について注意すべきは、相続の際に株式が親族以外に渡ることです。遺言などで相続人の親族などに該当しない人間に多くの株式が渡ると事業承継税制を利用できなくなるため、相続開始前からその他の相続人と相談する必要があります。
会社に求められる要件
被相続人と相続人に関する要件を確認したところで、続いて会社に求められる要件です。
事業承継税制による相続税猶予を受けるためには会社が以下の6つに「該当しない」ことが求められます。
- 上場している
- 中小企業に該当しない会社
- 資産管理会社
- 風俗営業会社
- 総収入金額がゼロの会社
- 従業員数がゼロの会社
ここで注意すべきは「中小企業に該当しない会社」の要件です。
該当してはいけない要件を挙げたため回りくどい言い回しとなっていますが、つまりあなたの会社が「中小企業に該当する会社」であれば事業承継税制の対象となります。
中小企業に該当する会社とは以下のとおりです。
*画像1 引用元:https://www.chusho.meti.go.jp/faq/faq/faq01_teigi.htm
業種により条件が異なるので、あなたの会社の場合について確認してみてください。
担保の提供を行う
最後の要件は担保の提供を行うことです。
担保というと身構えてしまうかもしれませんが、通常であれば相続税猶予の対象となる非上場株式をそのまま担保にします。
そのため改めて担保を用意する必要はないので安心してください。
申告後も備え続ける必要のある条件
事業承継税制の制度を使って相続税の猶予を受けるための要件について確認しましたが、それだけで永続的に猶予を受けることができるわけではありません。
相続税の申告期限から5年を一つの区切りとして、それぞれ求められる条件があります。
申告期限から5年間に必要となる条件
猶予の認定を受けた後は、申告期限から5年間は1年に1回の年次報告書を都道府県に提出しなければなりません。
また税務署にも継続届出書の提出が必要となります。 年次報告書では、後述する打ち切り事由が発生していないことを記載します。そうすることで猶予を受け続けることができるのですね。
会社に上場などの大きな変化がない限り、2代目経営者の次の代に会社をゆずる際にも同様に事業承継税制の効果を得ることができるので、使いようによっては永続的に相続税の猶予を受けることができます。
申告期限から5年経過後に必要となる条件
申告期限から5年が経過すると提出書類の要件が緩和され、3年に1度、税務署に継続届出書を提出するだけで良くなります。
ただし、こちらも後述しますが打ち切り自由には引き続き注意する必要があります。
相続税が免除される場合
このように要件を満たすことで相続税の猶予を受けることができます。
猶予され続ける限り相続税を支払う必要はありませんが、いくつかの事由があることで相続税が免除されるケースがあります。
ここでは、猶予された相続税が免除となる場合について解説します。
猶予を受けた相続税が免除される場合
猶予を受けた相続税が免除になるのは以下の2つの場合です。
- 相続人が死亡した
- 相続人が次の後継者に事業承継税制の制度を使って株式を承継した
相続人の死亡についてはさておき、相続人が猶予を受けた相続税は、同じようにして次の世代に株式を譲ることで完全に免除されるのです。
そして、次の世代の後継者が同じように会社を経営していき、最終的にさらに次の世代に株式を譲るのですね。こうして日本の中小企業が存続していきます。
事業承継税制の適用が打ち切りになる6つの事由
記事の中で相続税の猶予が打ち切りになる場合があると述べました。ここでは、打ち切り事由について解説します。
こちらについても猶予を受けてから5年を一つの区切りとして打ち切り事由が変化します。
5年以内の打ち切り事由
猶予を受けてから5年以内についての固有の打ち切り事由は以下のとおりです。
- 会社が、上場会社に該当
- 会社が、風俗営業会社に該当
- 会社が、資産保有型会社又は資産運用型会社に該当
- 相続開始の日の従業員数の8割以上を5年間平均で維持できなかった
- 特別関係会社が、風俗営業会社に該当
- 後継者が取得した株式の議決権に制限を加えた
- 後継者が会社の代表者でなくなったこと
- 後継者以外の株主が拒否権付株式を保有
- 後継者グループで過半数の議決権を有さなくなったこ
- 後継者が後継者グループの中で筆頭株主でなくなったこと
細かな事由も多いですが、打ち切りになると一度に相続税の負担がふりかかり大きなリスクとなります。
また、後述する「5年以内および5年経過後の打ち切り事由」も5年以内に共通するものとなります。
5年以内および5年経過後の打ち切り事由
以下は5年以内および5年経過後の打ち切り事由です。
- 会社が、資産保有型会社又は資産運用型会社に該当
- 事業年度の総収入金額が0円になった
- 資本金・資本準備金を減少
- 会社の解散、合併による消滅、分割型分割による会社分割、株式交換等による子会社化があった
- 税務署での年次報告を怠った、報告内容と事実に違いがあった
- 税務署に適用をやめる旨の届書を提出
- 被相続人が対象となる株式を譲渡または贈与した
このように打ち切り事由は非常に多くなります。これらをしっかりと把握し、最終的な相続税の免除を目指しましょう。
贈与税について納税猶予を受ける場合
事業承継税制が相続税と贈与税を猶予するものであることは冒頭で述べました。ここでは贈与税が猶予される要件についてみていきましょう。
原則としては相続税の猶予を受ける際の要件と同じですが、「贈与者の要件」と「受贈者の要件」のみ異なります。
【受贈者の要件】
- 贈与の直前において、3年以上、対象となる会社の役員であること
- 贈与の時点において、20歳以上であり、かつ会社の代表権を有していること
- 贈与の時点において、会社について受贈者および親族などで50%を超える議決権を有しており、受贈者が親族などの中で最も多くの議決権を有していること
【贈与者の要件】
- 過去に会社の代表権を有していたこと
- 贈与の時点で会社の代表権を有していないこと
- 贈与の直前において、会社について贈与者および親族などで50%を超える議決権を有しており、贈与者が親族などの中で最も多くの議決権を有していること
このように基本的な部分は相続税の猶予を受ける際と変わりません。しかし細かな点で違いがあるため、あなたが受けるのが相続なのか贈与なのかは注意しておく必要があります。
まとめ
以上のように、事業承継税制は承継した株式について相続人および受贈者にかかる相続税または贈与税を免除し、中小企業の存続を促進するための制度です。
中小企業は経営者とその親族に株式が集中する傾向があるため、相続時の後継者の負担は大きくなりがちです。
そのため事業承継税制を使って、事業承継後の会社経営を傾かせない取り組みが必要なのですね。今回のポイントを確認しましょう。
- 事業承継制度は、相続と贈与で要件などが変わる
- 申請後は、定期的に報告書や届出書を提出しなければならない
- 打ち切り事由は非常に多いため常に注意しよう
事業承継は複雑な制度のように思えますが、中小企業の存続のためにあるものだと理解しておくことで、それぞれの要件も覚えやすくなります。
申請期間を逃さないように注意しつつ、先代経営差と2代目経営者で制度を理解していきましょう。