売掛金とキャッシュフローはいずれも、会計用語として広く知られています。
そしてこの両者には密接な関係があることを、中小企業経営者の皆さんはすでにご存じだと思います。ご存じないとしても両者には何らかの関りがあるというおぼろげなイメージはお持ちでしょう。
この売掛金とキャッシュフローの関係で最も知っておくべきことは、両者の関りから分かる経営の健全性です。
特に資金繰りの状況を知るうえでとても重要で、売掛金とキャッシュフローを知ることによって企業として最も避けたい黒字倒産のリスクを察知することもできます。
それでは、売掛金とキャッシュフローの関わりと売掛金が本質的に抱えているリスク、そのリスクを軽減する方法について解説していきましょう。
1.売掛金とキャッシュフローの関係
売掛金とキャッシュフローには、反比例する相関関係があります。この関わりが分かると、キャッシュフローの重要性と経営の健全性を高める方向性を理解することができます。
1-1.売上は伸びているのにキャッシュフローがマイナスになる
おそらくほとんどの企業が取引先と掛取引をしていることと思います。掛取引をしていると、当然ながら売上が増えるのと同時に売掛金も増えます。
売掛金が増えるということは近い未来の入金額も増えるはずで、経営的にも順調だと判断できるので、キャッシュフローもプラスになっているはず・・・と思いきや、実際はその逆です。
売上が伸びているのにキャッシュフローがマイナスになるのは、売上が増えるのと同時に売掛金が増大しているからです。
1-2.売掛金とキャッシュフローは反比例する
売上が伸びているのにキャッシュフローがマイナスになる原因が売掛金の増大であると述べました。この関係性から売掛金とキャッシュフローには反比例する相関関係があることが分かります。
売掛金の他に、手形についても同様です。この両者はいずれも商品やサービスの対価として支払われるものですが、現金(キャッシュ)ではなく売上債権です。
この点が、キャッシュフローとの関係を理解するうえで非常に重要です。
1-3.売掛金は回収してはじめてキャッシュフローでプラスになる
ここまでの解説ですでにお分かりかと思いますが、売掛金が現金ではなく手形と同様の売上債権である点がポイントです。
キャッシュフローは売上が現金にとなってはじめて計上されるため、売上債権が増えるということは「回収できない可能性がある債権が増えている」とも解釈できます。
つまり、キャッシュフローはマイナスになるわけです。
売掛金や手形は回収した時点ではじめて、キャッシュフローもプラスになります。
このことを踏まえると売掛金や手形など売上債権が増大するとキャッシュフローとの乖離が大きくなり、資金面でのリスクが高くなることを意味します。
1-4.重視するべきはキャッシュフロー
どんなに売上があっても、それを回収しなければキャッシュフローはプラスになりません。しかし、人件費や仕入れ、購買などのために企業は現金を必要とします。
キャッシュフローがマイナスになるということは現金が減っていることを意味するため、売上が伸びていてもそれが売掛金のままだとむしろ資金ショートのリスクは高くなってしまい、最悪の場合は黒字倒産の可能性もありえます。
こうした事態を回避するために、経営者はキャッシュフロー計算書の中でも売上債権の状況を重視する必要があります。
そこから落とし込んでいくと、売掛金の過剰な増大を防ぐためにも回収が適切に行われている必要性あるとお分かりいただけるでしょう。
2.売掛金が抱えるリスク
ここでは、売掛金の役割や本質的に抱えているリスクなど、基本的な知識について解説します。
2-1.そもそも売掛金とは
売掛金とは、掛取引による商取引で商品やサービスを提供した対価として代金を受け取る「権利」のことです。
重要なのは代金を受け取る権利であって、代金ではない点です。未来にその代金を受け取れることが確定しているものの、現時点ではまだ受け取っていないものはすべて売掛金として扱われます。
このように売掛金が存在するのは、いわゆるBtoBの商取引では掛取引が主流になっているからです。
これがBtoCだと商品の引き換えにその場で代金を支払う場合がほとんどなので掛取引とはならず、売掛金も発生しません。
スーパーやコンビニエンスストアでの買い物を想像すると容易にご理解いただけると思いますが、BtoCであっても掛取引がないわけではありません。
例えば、百貨店の外商は掛取引であることがほとんどです。百貨店は外商取引のある顧客に商品を販売し、顧客はその月の買い物代金の総額を月に一度支払うという形になっています。
そのため、顧客がまだ代金を支払っていない間は百貨店側に売掛金が発生しています。
2-2.売掛金には回収不能のリスクがある
売掛金には、潜在的なリスクがあります。どんなに支払いが確実な取引先であっても、その取引先が突然経営破綻するかもしれませんし、代表者が突然亡くなることによって売掛金の回収に支障をきたすことがあるかもしれません。
新規の取引先や経営状態が不安定な企業など、支払いに不安を感じる売掛金にはリスクをイメージしやすいですが、たとえ支払いの不安を全く感じていない取引先であっても、売掛金には回収不能のリスクがあるというのが会計上の考え方です。
2-3.キャッシュ不足がもたらす事態
売掛金が増えるとキャッシュフローがマイナスになるのは、先ほど述べたように売掛金の潜在的なリスクがあるからです。
こうした会計上の仕組みになっているのは、売掛金が万が一回収不能になった場合に起こりうるキャッシュ不足の可能性を考慮しているためですが、それでは実際にキャッシュ不足になるとどんなことが考えられるのでしょうか。
2-3-1.支払いの遅延
売掛金が回収不能になったとしても、だからといって人件費や仕入れ代金を支払わないわけにはいきません。
入金が減ってしまっているのに支払いだけは予定通りだとキャッシュ不足になり、支払いの遅延や資金ショートの可能性が生じます。
事情が事情なので支払いの遅延に対して理解を示してくれる取引先もあると思いますが、十分なキャッシュがないことを知らせているようなもので、経営に対する不安や不信を高めてしまうことは避けられません。
2-3-2.黒字倒産
資金がショートしてしまうと、最悪場合は黒字倒産になってしまいます。
黒字決算になっているということは企業活動が健全であり、利益を確保できるだけのビジネスモデルを有していると想像できますが、それなのに資金ショートによって倒産してしまうのは、とてももったいないことです。
多くの経営者が黒字倒産だけは何としても避けたいと考えているのは、赤字倒産と違って資金繰りだけの問題で有望なビジネスモデルを台無しにしてしまうことに納得できないからです。
売掛金が持つリスクが顕在化すると、最終的には黒字倒産にまで発展してしまう可能性があることを十分理解しておいてください。
3.売掛金が抱える経営リスクを軽減する方法
売掛金のリスクについて理解していただいたところで、それではこの厄介なリスクを軽減して経営を健全化する方法について解説していきたいと思います。
3-1.理想は現金取引
売掛金のリスクをゼロにするためには、そもそも売掛金を発生させないようにするしかありません。
であっても現金取引にすれば理論的には売掛金なし、リスクなしの取引が可能になりますが、頻繁かつ継続的に商品やサービスが提供されるような取引関係であることがほとんどなので、なかなか現実には難しいでしょう。
3-2.売掛金の回収サイクルを早める
支払いサイトを工夫することで、売掛金の回収リスクを軽減することができます。単純な比較として「90日後決済」と「30日後決済」であれば、後者のほうが低リスクです。
なぜなら60日の間に予想外の事態が起きるかもしれませんし、入金までの時間が長いとそれだけ支払いに耐えるためのキャッシュが多く必要になるからです。
スタートアップ企業であったり、取引関係が浅い場合は支払いサイトが長くなりがちですが、取引関係が成熟してくるのにあわせて支払いサイトを見直し、回収までの時間をできるだけ短くすることが売掛金のリスク軽減につながります。
3-3.支払いサイクルを遅くする
前項の逆で、自社からの支払いをするまでの時間を長くすることで資金ショートのリスクを軽減できるため、それが売掛金のリスク軽減になります。
この場合も取引先からの信用が重要になるため、取引関係が成熟していないと交渉は難しいかもしれません。その場合は法人用のクレジットカードを利用するのもひとつの手です。
クレジットカードは早くても翌月、場合によっては翌々月の決済になるため、取引先への支払いサイトがそれよりも短い場合はクレジットカードで支払うことで支払いまでの時間を延ばすことができます。
クレジットカードは法人用であってもポイントの付与や各種特典があるので、その意味でもメリットがあります。
3-4.売上債権の現金化
先ほど解説した支払いサイトの工夫は、いずれも取引先との交渉と合意が必要です。
それが難しい場合は自社だけでできる方策として、売上債権の現金化が有効です。
3-4-1.ファクタリング
ファクタリングは近年になって知名度が高くなってきたもので、支払い期日が到来していない売上債権を専門の業者に買い取ってもらうサービスのことです。
売掛金を回収する前に資金繰りが苦しくなってきた時に有効なサービスですが、手数料が決して安くないことや、3社間ファクタリングだと売掛金を第三者に売却したことが取引先に知られてしまうため、そういったデメリットも考慮しつつ利用を検討してください。
なお、2社間ファクタリングといって自社とファクタリング業者だけの2社間取引で資金調達が可能な仕組みもあります。
この仕組みを利用すると取引先に資金繰り事情を知られる心配はありませんが、手数料が高いことなどのデメリットは変わりません。
3-4-2.手形割引
売上債権が手形である場合は、手形割引業者にその手形を買い取ってもらうことで資金を調達することができます。
手形「割引」という名称になっている通り、手形割引を利用すると業者に多額のコストを支払うことになるので、急場をしのぐことはできても資金繰りの根本的な解決にはなりません。
3-5.売掛保証で保険を掛ける
売掛金が持つ回収不能リスクを、保険でカバーできることをご存じでしょうか。欧米ではすでに多くの企業が利用しているサービスで、売掛保証と呼ばれています。
この保険を利用すると、万が一売掛金が回収不能に陥ったとしても保険会社から保険金が支払われるため、回収不能のリスクを適切に管理することができます。
4.まとめ
売掛金が持つ潜在的なリスクとキャッシュフローとの関係について解説してきました。企業経営において重要なのはキャッシュであり、それを示しているのがキャッシュフロー計算書です。
そこから資金繰りの健全性を読み取り、適切な方策を講じることで経営の健全性を保つことは経営者の重要な責務です。
売掛金のリスクを軽減する方法も併せて解説しましたので、ぜひご参考にしてください。