「中小企業の後継者不足は深刻らしい…、どんな理由があるのだろう?」
「実際のところ後継者がいない場合はどのような対処法があるの?」
中小企業の後継者不足は社会的な問題とされており、中小企業庁をはじめとした公的な機関も対策をうち出しています。しかしいまだ多くの中小企業が後継者不足に悩んでいるのも事実なのですね。
そこで今回の記事では、中小企業の後継者不足の問題について紹介させていただきます。
どういった理由から後継者不足が進むのか、また後継者がいない場合にどのような対処法があるのか。こういった点を詳しく解説させていただくので、あなたの事業承継の参考にしていただけると幸いです。
Contents
3つの視点から見る|中小企業の後継者不足の現状
それでは、はじめに以下の3つの視点から中小企業の後継者不足の現状を確認していきましょう。
- 業種別
- 地域別
- 売上規模別
中小企業の後継者不足がどれほど深刻な状況にあるかを確認していただけますと幸いです。
業種別
まずは産業別に後継者不足の現状を紹介させていただきます。以下の表をご覧ください。
引用:帝国データバンク「2017年 後継者問題に関する企業の実態調査」
このように全産業を合計した後継者不在率は66.5%となっています。実に10社に6社の企業で後継者が不足しているのです。
業種により不在率は変わりますが、日本全体で後継者不足が深刻であることがうかがえるのではないでしょうか。
地域別
続いて地域別の後継者不足の現状を紹介させていただきます。
引用:帝国データバンク「2017年 後継者問題に関する企業の実態調査」
こちらも50%をきる地域はなく、日本全国で後継者不足が深刻であることがうかがえます。
特に北海道の不在率は74.0%と高く、多くの企業で事業承継が進んでいません。四国は52.2%と健闘していますが、それでも半分の企業は後継者がいない状況なのです。
売上規模別
最後に売上規模別の後継者不足を紹介させていただきます。
引用:帝国データバンク「2017年 後継者問題に関する企業の実態調査」
上の表からは、売上規模が小さいほど後継者不足が深刻であることがわかりますね。売上規模が1,000億円を超える巨大企業では、後継者不在率が24.3%と非常に低くなっています。
一方で売上規模が1億円未満の小さめの企業においては、なんと78.0%が後継者不在なのです。
このように日本全体で業種・地域を問わず後継者不足は深刻であるということができますね。
特に売上規模が小さければ小さいほど、後継者を見つけにくく、より早い時期から後継者探しに着手する必要があるとおわかりいただけるでしょう。
後継者不足になる理由
ここまで紹介させていただいた内容で、後継者不足の深刻さがおわかりいただけたかと思います。それでは、なぜこのように後継者不足は進んでしまったのでしょか?
ここでは企業が後継者不足に陥る理由を紹介させていただきます。はじめにデータから後継者不足が進む理由をみてみましょう。以下をご覧ください。
引用:ニッセイ基礎研究所「働く人の就業実態・就業意識に関する調査(2004年)」
2004年にデータになりますが、こういった理由から後継者不足が進んでいるのですね。以下では上位3つの理由について詳しくチェックしてみましょう。
親の事業に将来性・魅力がないから
上の表で45.8%と最も高い割合だったのが「親の事業に将来性・魅力がないから」という理由です。この理由は以下の2つに分解されるのではないでしょうか。
- そもそも親の事業に魅力がない
- 親の事業の魅力を子供に伝えることができていない
企業が債務超過の状態にあるような場合は子供としても継ぐことで大きなリスクを抱える恐れが高いので、こうした理由も納得できるのではないでしょうか。
しかし企業の経営が安定していても、事業の魅力を子供に伝えることができていない例もあるのですね。
こうした場合は親と子供で事業についてよく情報共有をすることで、事業と経営に関する認識の違いをなくしていきましょう。
自分には経営していく能力・資質がないから
表において2番目に高い割合だったのが「自分には経営していく能力・資質がないから」という理由になります。
この理由のポイントは、後継者候補である子供自身が自分には能力・資質がないと考えているところです。つまり現経営者である親が「子供には能力・資質がない」と考えているわけではないのです。
私も経営者として会社のトップになるためには一定の向き不向きがあると考えています。
しかし同時に、巷でよく言われる「経営者のあるべき姿」に惑わされずに個々の経営者が自分らしい経営のスタイルを見つけることも重要だと感じます。
そのため子供自身が「自分には能力・資質がない」と考えていても、それが正しいかは慎重に見極める必要があるのではないでしょうか。
やはりこの点についても、親から子供に経営するために具体的に必要な業務や能力を伝えるべきだと思います。
今の仕事・企業等が好きだから
3つ目の理由は「今の仕事・企業等が好きだから」というものです。
こちらはこれまで紹介させていただいた2つの理由とは違って、子供にとって親の会社を継ぐよりも明確にやりたいことがある場合ですね。そのため子供を後継者とすることが難しくなります。
しかし、このケースであっても子供が正確に親の事業を理解できていない恐れがあるので、事業と経営について正確な情報を伝える機会を設けてみてはいかがでしょうか。
後継者が見つからなかったら廃業する
ここまでの内容で後継者不足の現状と、子供が親の事業を継がない理由を紹介させていただきました。あなたの会社に当てはまるものはございましたでしょうか?
こうした深刻な状況の中で、仮に後継者が見つからなかった場合、企業は最終的に廃業の選択をしなければなりません。以下は企業の休廃業・解散件数、倒産件数の推移です。
引用:「第1部 平成28年度の中小企業の動向」
このように、ここのところ倒産数は減っていますが、休廃業・解散数は上昇しています。2016年においては、なんと3万件に近い企業が休廃業・解散を選択しているのです。
この中には後継者がいないために休廃業・解散を選択しているものも決して少なくないでしょう。
このように企業が事業継続できない状態になると、社員が働き場を失ってしまいます。そのため、現経営者としてはなるべく後継者を見つけて、会社を次の世代へと託すべきだと感じます。
この次は、後継者がいない場合の3つの対処法を紹介させていただきます。
身の回りに後継者がいなかった場合の3つの対処法
あなたが会社の経営から手を引くとしても社員の存在を考えると、安易に廃業を選択することは難しいはずです。
私もそうでした。はじめは父親の会社を継ぐつもりはありませんでしたが、最終的に幼い私に良くしてくれた社員さんに恩返ししたいという気持ちもあり、会社を継ぐことを決めています。
私の会社の場合、後継者として私がいました。しかし後継者がいない場合は、以下の3つの対処法が会社を次の世代に残すことにつながります。
後継者を育成する
はじめに紹介させていただく対処法は、後継者の育成です。
ここまでの内容でも紹介したとおり、あなたの会社の事業と経営について、後継者となり得る子供や社員に正確なところを伝えることも育成に含まれるのです。
つまり後継者となり得る人物の中にある勘違いや情報不足を正すのです。
これが後継者育成の第一歩となります。これにより子供や社員が「会社を継いでもよい」と考えてくれたら、そこからさらに育成を進めていきましょう。
M&A
身近にいる人物の中から後継者を見つけることができない場合は会社を外部に譲ることも選択肢に入れなければなりません。
外部の人物に会社を託すことについて抵抗を覚える場合も少なくないとは思いますが、適切な人物を見つけることができれば、あなたの会社の社員の方にも大きなメリットが生まれます。
会社の株式を大企業に譲ることができれば、社員の方はより高い安定を手に入れることができるでしょう。
場合によっては、グループ内で配置転換が行われて、社員の方がより適性を発揮できる業務に従事できるかもしれないのです。
このようにM&Aは身近なところに後継者がいない中で会社を次の世代に残すための選択肢の一つとなります。
マッチングサービス
昨今M&Aと共に事業承継に広く利用されているのがマッチングサービスです。こちらはインターネット上のマッチングサイトを使って、会社の譲渡をするものです。
従来のM&Aと比較して、事業承継が迅速かつ安価にできる点に大きな特徴があります。
しかし多くのマッチングサービスでは、事業承継についての交渉を進める過程に仲介会社が介入しないため、あなたの目で後継者となる人物を見定めなければならなくなるのです。
こうした難しさはありますが、仲介会社にM&Aを依頼する場合よりも手数料が低くなるので、現経営者であるあなたが得られる会社の株式の売却代金がより多く残ります。
M&Aとマッチングサービスに進むために今すぐ着手すべき改善
このように後継者がいない場合は、M&Aやマッチングサービスの利用も視野に入れて会社を次の世代に残す方法を考えていく必要があるのですね。
そこで記事の最後では、M&Aとマッチングサービスを見据えて、今すぐ着手できる会社の改善について解説させていただきます。
以下はM&Aとマッチングサービスにつなげるためのものではありますが、子供や社員などの身近な後継者に会社を譲る際にも利用できるものとなっております。
そのため事業承継を検討されている場合は、明日にでも着手されることをおすすめいたします。
財務状態を改善する
はじめに紹介させていただくポイントは会社の財務状態を改善するというものです。事業承継する場合は、後継者にいかに財務状態をわかりやすく伝えるかが大切なのですね。
後継者が会社の財務状態を正確に理解できてこそ、会社を継ぐか否かを正確に判断できるためです。これはM&Aやマッチングサービスの場合であっても、親族内承継の場合であっても変わりません。
財務状態を改善する場合は以下のポイントに注意してください。
- 過去に取得した不動産や動産の資産価値を現在価値に修正する
- 資産として計上されているサービスや製品の価値を現在価値に割り戻す
- 負債を減らす
これらを行うことであなたの会社の財務諸表は、より現在の会社の状態を正確に示したものとなります。つまり会社の魅力や価値を正確に後継者に伝える役に立つのですね。
事業リスクを低くする
後継者を見つけやすい環境を作るためには、以下のような事業リスクを低くしておくことも非常に重要になります。
- 訴訟リスク
- 継続している訴訟を終結させる
- 取引先が一か所に集中すること
- 不要な営業所の廃止
- 顧客トラブルの解消
- コンプライアンス違反
- 滞納している支払い
つまり会社を綺麗な状態にして後継者に譲るのです。こうしたリスクが多ければ多いほど、当たり前のことですが後継者は見つかりにくくなります。
特に外部者に会社を譲るM&Aやマッチングサービスでは、上記のようなリスクが交渉決裂につながる恐れが非常に高いのです。
見えない資産を整理する
会社には見える資産と見えない資産があるとされています。見える資産とは、人、金、機械設備、システムなど金銭に換算することが比較的簡単なものです。
これに対して見えない資産とは、以下のようなものを指します。
- 会社の歴史
- 会社のブランド
- 信用
- 会社の強み
- 会社のビジョン
つまり、これ自体では金銭への換算が簡単ではないものです。
しかしこうした見えない資産こそが、あなたの会社の個性を作っています。そのため事業承継においては、これらの見えない資産を後継者にしっかりと伝えることが重要となるのです。
見えない資産については現経営者であるあなたの頭の中には漠然と存在していますが、外から見てもすぐに理解はできません。
そのため、事業承継に先立ってあなたの頭の中で見えない資産を整理し、後継者に伝えやすい状態を作っておくのがおすすめでございます。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は中小企業の後継者不足について解説させていただきました。後継者不足の問題は業種・地域を問わず非常に深刻なのです。
特に売上規模の小さな企業は後継者不足が生じやすく、早い段階での対処が必要となっています。
こうした後継者不足に対処するためには、後継者の育成を始めつつ、M&Aやマッチングサービスも視野に入れていく必要があるでしょう。
そうすることで身近に後継者が見つからなかった場合であっても、会社を次の世代に残しやすくなるのです。
また、後継者にあなたの会社の価値と魅力を正確に伝えることも非常に重要となります。
その際は、以下の3点に注意していってください。
- 財務状況を改善し、わかりやすくすること
- 事業リスクをなるべく低くしておくこと
- 会社の見えない資産を頭の中で整理し、後継者に伝えやすい状態にしておくこと
あなたの会社の価値と魅力は、あなたには理解できても外部の人には正確に理解できない場合があるのです。
そのため会社の状態を整理し、外から見て素敵な会社だと思えるようにしておくことは非常に重要になります。
あなたも明日から3つの改善に着手されてみてはいかがでしょうか。